「遊び心」から始まったショートスケールベースの革命――saitias guitars 齊田隼人が語る、Lorentz(ローレンツ)の4年とこれから
saitias guitarsの代表的なモデルであり、コンパクトなボディからは想像もできないパワフルサウンドで多くのベーシストを魅了し続ける「Lorentz(ローレンツ)」が、発表から4周年を迎える。
今回は4周年という節目を記念し、ブランド代表でありビルダーの齊田 隼人(さいた はやと)氏にインタビューを敢行。誕生秘話から独自の構造論、そして5年目に向かうこれからの展望まで、たっぷりと語ってもらった。
スティングレイ5へのリスペクトと「遊び心」から生まれたプロトタイプ
—— Lorentz発表から早くも4年ですね。今やsaitias guitarsを象徴するアイコン的なモデルになりましたが、まずは開発のきっかけから教えていただけますか?
実は一番最初のきっかけって、すごくシンプルで。「スティングレイ5をどこまで小さくできるか?」という、半ば個人的な遊び心から始まったプロジェクトだったんです(笑)。
—— 遊び心からだったんですね! それは驚きです。
そうなんです。スティングレイ5が持つあのパワフルなサウンドと存在感を、どれだけコンパクトなパッケージに凝縮できるかという実験ですね。ちなみに初期のキービジュアルの写真なんかも、あの有名なミュージックマンのブランドロゴのポーズを意識して描いてもらっていて。知っている人が見たら「あ、あれね!」とニヤリとしてもらえるようなオマージュを込めていました。


—— なぜスティングレイ5という存在に着目されたのでしょうか?
スティングレイには00年代初頭こそハードロックやミクスチャーのアンサンブル御用達のような世間的なイメージがあったかと思いますが、日本の80〜90年代のポップスの録音にも実はスティングレイが使われている事が多くて。
—— 確かに、ポップスの名盤でもあの独特の低音やアタック感はよく耳にしますね。
一聴しただけでスティングレイと分かる存在感がありつつも、アンサンブルを破綻させない調和力をしっかり持ち合わせている素晴らしい楽器なんですよね。だから個人的にはスティングレイってもっと幅広いジャンルで重宝されるタイミングがやってくるんじゃないか、という確信はありました。だからこそ、「Lorentz」というフォーマットにそういった探究心を注ぎ込みたかったんです。
—— なるほど、明確なサウンドへのこだわりがあったからこそ生まれたんですね。音作りの面ではどのようなプロセスを踏んだのでしょうか?
最初のプロトタイプが出来上がってからは、とにかく色々な現場に持ち込みました。楽器の展示会はもちろん、知り合いのリハーサルスタジオなんかにも突撃して。プロ・アマチュアを問わず、本当にたくさんのベーシストの皆さんに試奏してもらいましたね。ジャンルもプレイスタイルもバラバラな方々から現場での生のフィードバックを集めて、それを持ち帰っては微調整を繰り返す。自分でも自宅で使ってみて日々の生活に馴染むかな、とか。
そうやって「誰が弾いても、誰が持っていても存在価値を見出してもらえるか」というLorentzのベーシックな音色とプロダクトデザインを徹底的に磨き上げていきました。



予想外だった「4弦モデル」の反響と、物理構造のからくり
—— 開発当初は5弦モデルがリファレンスだったとのことですが、現在では4弦モデルも絶大な人気を誇っていますよね。
開発時は前記した通りスティングレイ5をリファレンスにしたので、4弦は後追いで製作しました。でも実際に形にして弾いてみると、4弦ベースでカバーする音域と、1ハムバッカータイプのトーンの相性と潔さ、シンプルな魅力があったからこそ市場に受け入れられたのではないかなと思っています。
—— クオリティの高いヘッドレスベースとしても高く評価されていますが、齊田さんご自身の中では少し捉え方が違っていたとか?
そうですね。ヘッドレストというキーワードはブランドの成り立ちにおいてとても重要ですが、Lorentzの開発はヘッドレスという要素よりも、ショートスケールベースの可能性を広げるという要素の方が先行していました。
—— ショートスケールというと、「弾きやすいけれどテンション感が緩くて音がボやける」というイメージを持つ人も少なくないと思います。Lorentzはそのあたりをどう克服したのでしょうか?
販売店様の特集動画でも言及していますが、まずネックのジョイント角度をつけていること。そしてもうひとつは、プレイヤーが意識せずにブリッジ寄りでピッキングすること。この二つがポイントになっています。
これらはショートスケールの弦のテンションを補う最も原始的で単純な方法ですね。

—— 確かに、自然なフォームで弾こうとするとボディの中央付近に手がきます。
まさにそこがポイントで。ローレンツはボディの中心部に指を置いてピッキングすること=ロングスケールのベースをブリッジ寄りでピッキングすることになるので、実は楽器の構造自体に特殊な工夫はしていないんですよ。
—— なるほど! それが弾き手は何も意識せず自然に構えているだけで、無理なく理想的なサウンドを生み出すことに繋がるんですね。
その通りです。物理的なスケール感と人間のフォームのトータルバランスを計算した結果生まれた、ごくシンプルなアプローチなんです。